一志治夫 『庄内パラディーゾ』
今や国内のみならず、海外からも客が押し寄せるという、鶴岡市の有名イタリアンレストラン「アル・ケッチャーノ」。本書は、そのシェフ・奥田政行(一九六九生)と、庄内平野で農と食に携わる人びとの、食と山形に対する熱い思いが記された一冊である。
奥田は、常にはっきりとした目標をもち、強い信念で相当の努力をしている人物である。高校卒業後「二五歳で料理長になる」と宣言し、東京で七年間、ストイックに料理人としての修業を積み、シェフとなる。その後、経営のたちゆかなくなった実家の事情などもあり、二四歳で鶴岡に戻り、「街を元気にする/生産者たちに夢を」との目標を、地元食材を生かしたイタリアンレストランの開店(二〇〇二年)という形で実現している。
その歩みは平坦ではない。料理に対し常に真摯に向き合うがゆえに、潔癖で妥協を許さないやりかたが周囲の反発を生みもする。しかしながら、そのどこまでもまっすぐな姿勢と庄内での数々の出会いとが、彼の料理という分野での芸術作品を磨き上げていった。在来作物を研究する江頭宏昌(山形大学農学部教授)との出会いもその一つである。彼らが出会ったことで、絶滅寸前だった在来作物・藤沢カブは息を吹き返し、平田赤ネギは名を広めていくこととなる。
庄内にいるのは奥田だけではない。酒田市のフランス料理店「欅」の太田政宏、鯉川酒造の佐藤一良、農の革命家ともいえる山澤清などはもちろん、有機農業に携わる若い生産者もいる。彼らが互いにリンクし合いながら、庄内の農業、食、地域そのものに光を当てるアクションを起こし続けた結果、庄内自体が日本から注目を集める、熱い地域となっている。
読後、改めて表紙に目をやる。月山と稲穂の実る庄内平野。おいしい水と米と在来野菜に恵まれた、庄内の豊かな大地が、目の前に広がってくる。潜在的な力を秘めた山形には、まだまだ大切にしなければいけないものがたくさんある。「山形を元気にする」という地域再生のカギは、一人一人の内にある山形への思いが握っている。
評: 小林みずほ(山形市)
by plathome04
| 2009-12-31 15:15
| 地域・食・環境から見たヤマガタ
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