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ヤマガタ発!


山形出身/在住の文化人や作家の作品、山形にまつわる著作を紹介する企画です。
by plathome04

入澤美時・森繁哉 『東北からの思考』

東北からの思考 --地域の再生、日本の再生、そして新たなる協働へ

入澤 美時 / 新泉社


山形県や東北地方に限らず、日本の地域・地方は過疎が深刻である。集落の維持が困難な限界集落も増え続けている。他にも、雇用や地場産業、観光など課題が山積みだ。

本書は、東北芸術工科大学教授で民俗学を研究する森繁哉(大蔵村出身)と、釣り・工芸・生態・食・旅などを専門とする編集者・入澤美時が、最上八市町村のさまざまな場所を巡って対談を行い、地域・地方の抱えている問題をあぶり出し、どうすべきかを提示したものだ。それぞれの対談は、「道の駅」やショッピングセンター街、集落風景の見える路上など、さまざまな場で収録された。

対談では、大まかに言えばたった一つの問いが、さまざまな具体例と角度から繰り返される。それは、ここまで疲弊した日本の地域・地方をどうやって再生すればよいか、というもの。これに対し、著者二人が提示するのは次のような答えだ。すなわち、現代資本主義の高度な技術や手法を取り入れていくという方向にしか今後の可能性はない、と。それには、かつて村落共同体にあった相互扶助の関係を、現在形に鋳なおし高度化していくしかない。加えて必要なのは、都市・都会から地域・地方への「無償の贈与」――経済的なものだけでなく、人や技術、ネットワークなどあらゆる面において――だ。そのためには、地域・地方の人びとと、都市・都会の人びととの交流・交歓を促す「共同」と「協働」の場の創設が不可欠である。そこで、新しい商品や市場、流通の開発を積極的に展開していけば、いままで想像したこともないような商品や市場、労働の現場が現れてくるはずだ。

入澤は、今回の訪ね歩きで、最上地方には緩やかなネットワークがあると感じた、と語る。それは、隣組という相互扶助の残滓が、いまも根強く残っているように映ったからである。このことは、最上地方の今後の可能性の大きさを意味している。この関係性が完全に失われてしまう前に動き出さねばならない。その帰趨は、同じ山形県民として、私たちにとっても他人事ではない。

評: 亀山勇樹(寒河江市)
by plathome04 | 2009-12-30 22:58 | 地域・食・環境から見たヤマガタ
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