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山形出身/在住の文化人や作家の作品、山形にまつわる著作を紹介する企画です。
by plathome04

カテゴリ:日本史の中のヤマガタ

  • 鈴木由紀子 『大奥の奥』
    [ 2010-01-21 00:44 ]
  • 山形新聞社[編] 『没後10年 藤沢周平読本』
    [ 2010-01-05 02:22 ]
  • 佐高信 『石原莞爾 その虚飾』
    [ 2009-12-31 16:00 ]
  • 大沼保昭 『「慰安婦」問題とは何だったのか』
    [ 2009-12-28 19:01 ]
  • 杉原志啓 『おもしろい歴史物語を読もう』
    [ 2009-11-18 11:50 ]
  • 吉田司 『王道楽土の戦争』
    [ 2009-11-04 01:34 ]

鈴木由紀子 『大奥の奥』

大奥の奥 (新潮新書)

鈴木 由紀子 / 新潮社


大奥といえば、華やかに着飾った女性たちが将軍の寵愛を巡って、日々イジメや嫌がらせの応酬を繰り広げている世界といったイメージが一般的だろう。それは多分にドラマや小説がそのような脚色を加えているためであり、また、それが現代の女性社会の相似形としてわかりやすく受け止められているためである。では、果たしてその実態とはどのようなものであったのか。これが本書のテーマである。

大奥について言及している同時代史料は少ない。したがって謎の部分が多いが、著者(米沢市出身)は数少ない史料や近世史学の研究成果を用いて、大奥の生活や政治との関わり合いを丹念に読み解く。一般的に知られていない大奥の職制や給料、衣食住など、およそ一五〇〇人はいたという大奥の実生活は非常に興味深い。あたかも小説やドラマの舞台裏を覗いているかのようである。

しかし、特に注目されるのは、政治に対して陰に陽に大奥の影響があったことである。例えば、柳沢吉保や田沼意次は大奥を巧みに利用して下級武士から老中までのし上がったが、やがて大奥の信を失ったことが一因となり、失脚している。また、大奥は多額の経費を抱えて幕府財政を逼迫させていたことから、天保の改革で知られる水野忠邦は大奥の経費削減を図ろうと試みた。しかし、逆に大奥で最高位の上﨟御年寄にやりこめられたという逸話が残されている。

男性に比べて女性の社会的地位が低いとされる封建社会において、大奥の存在は特異だ。なぜ、これほどまでに大奥が政治に影響を与える存在になりえたのか。それは将軍の世継問題が幕府最高レベルの問題であったことに起因する。側室であっても将軍の生母となれば政治に対する発言力が増す。その力を頼り、利用しようとする大名や役人が集まってくることで、大奥の権力が形成されていくのである。

「大奥は人を引き寄せる魔力に満ちている」と著者は言う。華やかさや女社会の愛憎劇のみならず、政治をも左右する存在だとすれば、まさに大奥は魔的な存在であると言えよう。

評: 今野 透(長井市)
by plathome04 | 2010-01-21 00:44 | 日本史の中のヤマガタ

山形新聞社[編] 『没後10年 藤沢周平読本』


本書は、山形新聞社が藤沢周平(一九二七‐一九九七)の没後一〇周年を期して紙上に連載した特集企画を一冊にまとめたものである。藤沢を知る旧友、文学者、言語学者、作家など多士済々が、彼への思いや藤沢周平論を展開し、また山形県内各地の読者や藤沢の教え子たちなどが、思い思いに一文を寄せている。

たとえば、長井市出身で藤沢と山形師範学校で一緒だったという蒲生芳郎(宮城学院女子大学名誉教授)は、学生時代に共につくった同人誌や藤沢との会話に思いを馳せながら、その後の小説を通して藤沢の人生の歩みを読みといていく。同級生ならではの、作家の人となりに近づいた読みかたを示している。

一方で、鶴岡市出身の中村明(早稲田大学名誉教授)は、藤沢文学における「姿」「女」「剣」「風」といったテーマごとのレトリックの考察を行なっており、改めて私たちは藤沢作品の一文一文に漂う詩情感やユーモアに気付かされる。なぜこれほどまでに藤沢の作品は深い共感を生むのか。中村によれば、藤沢文学にはヒーローはいない。全くの善人も悪人もいない。時代や権力に翻弄されながら粘り強く生きる人びとをありのままに描き、人間を一面だけでなく多面的に捉えていく。そうすることで、読者は「人間はこういうもの」と納得できるのだという。そこには、時代を経ても読み継がれる普遍性を見ることができる。

本書から伝わってくるのは、作家・藤沢周平の素晴らしさだけではない。彼が愛した郷土に連なる人びとの言葉から、多様な顔をもつ人間・藤沢周平の姿が浮かび上がってくる。それはまるで藤沢が市井の人びとの生きざまを丹念に描いたのと同じように、読者が藤沢の生きざまをそれぞれの心の中に描いているかのようである。作家への共感ができることもまた、藤沢文学が愛される理由だろう。
本書はいわば、藤沢文学をより深く味わうための参考テキストである。ファンにとっては座右の書に、これから触れる人には優れた手引書となる一冊だ。

評: 今野 透(長井市)
by plathome04 | 2010-01-05 02:22 | 日本史の中のヤマガタ

佐高信 『石原莞爾 その虚飾』

石原莞爾 その虚飾 (講談社文庫)

佐高 信 / 講談社


満州国建国の仕掛け人であり、日蓮教信者でもあった石原莞爾(一八八九‐一九四九)。庄内地方出身で、地元はもちろん、ある人たちにとっては英雄的存在で、現在でも「右翼の神様」「天才的軍人」として崇拝する人は多い。しかし一体、石原は、そう評価されるべき本当の天才と言えるのか。また、満州事変の首謀者でありながら、何故に軍事裁判を免れ、現代において尚これほどまで崇拝されているのか。本書は、これらの疑問に対し、左翼の代表的論客である著者(酒田市出身)が、多方面から石原の人となりを暴き出し斬りつける一冊である。

犬養毅の孫・犬養道子と、その三歳年下の市川房枝という二人の女性の対照的な石原観の紹介に始まり、歴史的な背景や当時の状況を解説しながら、石原にまつわる数々のエピソードや記録が紹介されていく。そして、著者の観点から、それらの石原観や石原評価のどこに信憑性があり、何が言及されぬままであるのか、それぞれのケースを分析・批評し、欺瞞的に見える石原像を考察していく。

石原が特別に可愛がったという、単純で短慮な部下・花谷正の言動。鶴岡市出身の作家・藤沢周平の石原観(その卓抜した予見能力を評価)。石原と同時代に生きた魯迅(中国人民の精神改造のため作家になる)や、アラビアのロレンス(アラブ人がごとく生きたイギリス人)などとの対比は、当時の軍人のありようについてさほど知らなくても、石原をイメージする一つの目安となる。そして石原の一見魅力的な思想や人となりの裏にある傲慢さ、反省のない無責任さが糾弾されていく。

「放火犯が消火作業をしても許されない。動機がよければそれでいいわけではない」。著者の見解は明快だ。私たちは放火犯を崇めてもいいのか――それは、後にできた「石原信仰」に疑問を投じることでもある。

本書からは、石原莞爾という人物を通して、当時の状況や戦争責任などを知ることができる。だが、何より興味深いのは、「石原信仰」の根強い庄内地方出身の著者が、同郷のヒーローである石原を斬ったことだろう。

評: 小林みずほ(山形市)
by plathome04 | 2009-12-31 16:00 | 日本史の中のヤマガタ

大沼保昭 『「慰安婦」問題とは何だったのか』

「慰安婦」問題とは何だったのか―メディア・NGO・政府の功罪 (中公新書)

大沼 保昭 / 中央公論新社


「慰安婦」とは、一九三〇年代初期から一九四五年に、中国や米国など連合国軍と戦った日本軍将兵の性的欲求を満たすために設けられた「慰安所」で、日々性交を強いられた女性たちを指す。本書は、「慰安婦」問題の解決に向けて設立された「女性のためのアジア平和国民基金(以下「アジア女性基金」と略記)」に深く関わった著者(山形市出身)が、一二年にわたるその活動(一九九五年設立、二〇〇七年解散)をふり返り、自己分析を行ったものである。

市民と政府により被害者への償いを行う「アジア女性基金」の事業――元「慰安婦」への国民的な償いのための基金の設置、彼女らへの医療福祉支援のための政府資金の拠出、政府による反省とお詫びの表明――が、一体何を「達成」することに成功し、そして何に「失敗」したのかが、読み進めるにしたがって具体的に示されていく。これらの「事業評価」ももちろんだが、より注目してほしいのは著者の「葛藤の末の実行力」だ。

女性の尊厳を根底から否定する「慰安婦」制度。その犠牲者に対する「償い」には、償いきれぬものを償うという根源的な限界がある。とはいえ、すでに年老いた被害者への償いに残された時間はなく、一刻も早く行動をおこす必要がある。相反する思いを抱きながらも、不完全ではあれ現段階で実現できる、よりましな選択肢を模索する著者の姿は、自らは何も行動をおこさず――代替案も出さず、実現不可能な絵空事ばかりをならべて――批判した気になっている人びとへの、密かなる挑戦状にも思える。

本人も自覚する通り、著者はこの基金の運営に関わった立場ゆえ、身内贔屓な目線は否めないだろう。しかし、多種多様な批判や非難を浴びながらも矛盾と向き合い、さまざまな課題を乗り越えるべく奔走してきた著者の言葉には、実践者としての説得力がある。また、メディア/NGO/政府への提言(特に、妄信的ともいえる「NGO/NPO善玉論」に対する批判)は、「慰安婦」問題に限らず、さまざまな知見を私たちに与えてくれるだろう。

評: 松井 愛(山形市)
by plathome04 | 2009-12-28 19:01 | 日本史の中のヤマガタ

杉原志啓 『おもしろい歴史物語を読もう』

おもしろい歴史物語を読もう (NTT出版ライブラリー レゾナント048) (NTT出版ライブラリーレゾナント)

杉原 志啓 / エヌティティ出版


福沢諭吉、中江兆民など近代日本の思想家たちを扱った思想史家・坂本多加雄(一九五〇―二〇〇二年)。本書は、その坂本に師事した著者が、師にまつわるエピソードとともに、近代日本に書かれた史書一〇篇を紹介した歴史物語ガイドブックである。著者は酒田市出身の思想史家・音楽評論家。東北公益文科大学(酒田市)でも教鞭をとる。

坂本多加雄と言えば、マルクス主義失墜後の「大きな物語」不在のアノミー状況(歴史学のポストモダン)を積極的に引き受け、実証史学に対抗して「物語としての歴史」を提唱、最終的には「新しい歴史教科書をつくる会」に行き着いたことで有名。その弟子である著者のスタンスもまた、師にならい、国家の来歴としての歴史=物語の再生産こそが重要、というものだ。

そうした問題意識の下で本書は、明治の言論人と、彼らによる日本人の歴史=物語とを次々に紹介していく。例えば、北村透谷との「文学渉相論争」で有名な思想家・山路愛山の英雄物語『豊臣秀吉』や近代日本を代表するジャーナリスト・徳富蘇峰の大著『近世日本国民史』、あるいは著者がそうした「民間史家」の系譜における戦後版継承者とみなす松本清張や司馬遼太郎など。中には、忘れられた民間史家・白柳秀湖『定本民族日本歴史』等の紹介もあり、とても勉強になる。

坂本=著者が言うように、歴史に物語としての側面があることに疑いはない。しかし彼らはそこから「どうせなら誇りをもてる物語を」と飛躍する。問題は、それが一体誰に誇りを与え、誰から尊厳を奪うかという点にある。坂本=著者は後者に無頓着だ。

とはいえ、本書が明らかにした近代日本の民間史家たちの言説空間は、東北をはじめとする列島各地の人びとが歴史=物語の回路によりどのように去勢され、「日本人」へと同化させられたかの標本箱そのものでもある。グローバル化の波が何度目かの去勢をもたらそうとしている現在、私たちは本書からかつての同化の手口を知る必要がある。たとえそれが著者の意図とは異なろうとも。

評: 滝口克典(東根市)
by plathome04 | 2009-11-18 11:50 | 日本史の中のヤマガタ

吉田司 『王道楽土の戦争』

王道楽土の戦争 戦後60年篇 (NHKブックス)

吉田 司 / 日本放送出版協会


王道楽土の戦争 戦前・戦中篇 (NHKブックス)

吉田 司 / 日本放送出版協会


本書は、「コラージュ・ノンフィクション」を自称する著者独自のやりかたで構成されている。文脈の異なる数多くの文献を縦横に引用、それらを駆使して自身の仮説と検証を展開。情報の断片を集め、そこから自由に全体像を組み立てていくという手法だ。

著者は山形市出身。ノンフィクション作家として数多くの著書を発表している。水俣病問題に独自の論点で切り込んだ処女作『下下戦記』は、一九八八年に大宅壮一ノンフィクション賞を受賞している。

タイトルの「王道楽土」とはかつての満州国建設の際に、帝国日本が掲げた理念である。上巻「戦前・戦中篇」では、島国日本の精神的DNAにまで遡り、「王道」=アマテラス原理主義を掲げたアジア侵略や関東軍幹部・石原莞爾(庄内出身)の奇妙な思想、そしてそれらに端を発する満州国がいかなる国家であったのかを、独自の仮説を交えつつ検証していく。また、下巻の「戦後六〇年篇」では、その満州国が戦後日本のかたちにいかに影響を与えたかを検証し、バブルがはじけるまでの戦後六〇年を総括する。

本書によれば、満洲国それ自体は日本の敗戦で消滅してしまうものの、そこで構築されたシステムは継承され、戦後日本の高度経済成長の支えとなった。武器を札束に切り替え、戦場を日本本土に移しての、国家総動員による「経済戦争」は、満州の夢の続きであったのだと著者は言う。したがって、バブルの崩壊とは、戦後六〇年に留まらず戦前まで含めた近代日本一〇〇年の敗北だったということになる。

では、足かけ一〇〇年の「王道楽土の戦争」が敗北した今、日本が向かうべき道はどこにあるのか。本書もまた最後にそれを提示して幕を引くが、しかしそれは、やや荒唐無稽とも言えるものだ。とはいえ、それに囚われる必要はない。著者が過去の文献の積み重ねから歴史を俯瞰し、そこから自身の答えを導き出したのと同じように、本書自体をコラージュ材料として使ってしまおう。過去を読み解き、これからの未来を考える際に、本書は刺激的で良質な素材となってくれるはずだ。

評: 矢萩竜一(天童市)
by plathome04 | 2009-11-04 01:34 | 日本史の中のヤマガタ
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